PRIMART Jornal vol.8 GRAPHIC DESIGNER RINTAROU SHIMOHAMA
PRIMART Jornal vol.8 GRAPHIC DESIGNER RINTAROU SHIMOHAMA

PRIMART Jornal vol.8

GRAPHIC DESIGNER RINTAROU SHIMOHAMA グラフィックデザイナー 下浜 臨太郎 インタビュー

SCROLL

リアルとバーチャルが切り替わる瞬間におもしろさがある

懐かしい時代を感じさせる看板文字をデジタルフォント化する『のらもじ発見プロジェクト』。日本の町工場の機械音や映像をサンプリングし作品化する音楽レーベル『INDUSTRIAL JP』。
グラフィックデザイナーの下浜臨太郎が手がけるプロジェクトには、常にリアルとバーチャルを交互に行き来している現代人の視線を新たな文脈に変換するおもしろさがあり、そこにはおおらかさと親しみが宿るアナログな空気感が醸しだされる。
巧みなアートディレクションと編集力で生み出されるプロジェクトは、子供の頃の原体験から引き出されたもののようだ。

PAST & PRESENT

リアルとバーチャルを交互に行き来する現代人の視線にゆさぶりをかけたい

『のらもじ発見プロジェクト』がスタートしたのは2013年です。このプロジェクトを一緒に起ち上げた若岡伸也氏が味のある看板の画像を集めていることをたまたま知ったのが始まりでした。そして看板の手描き文字から五十音のフォントを作ったらおもしろいんじゃないかと。 ウェブサイトでダウンロード販売し、それをお店に還元する仕組みは最初から考えていたわけではなく、制作を進める上で段階的につくられました。
はじめは、誰にも断らずにフォント化するのはイカンだろうと思ったんです。もちろん文字の作者の確認をとるのが一番なのですが、最低限その看板をかかげているお店の人には承諾してもらおうと…そうやって進めていくうちに、このフォントを販売しようと考えました。ただ、そこで得た利益を自分たちが受け取るのは違うと思ったので、フォント化を許可してくれたお店に受け取ってもらうことにしました。言わば、フォントを買ってくれたお客さんがお店にお礼をできる仕組みですね。こうしてプロジェクトの「発見→分析→フォント化→販売→還元」という流れができました。

このプロジェクトでは、まちにある看板という「リアル」な物体を、デジタルフォントという「バーチャル」な情報に変換して、それをダウンロードした人がTシャツをデザインしたり、ワークショップに参加したりすることで、また「リアル」に変換できる。
その行為は、みんなが花見に行ったときに桜の写真を撮ってフィルタをかけてインスタグラムにアップすることとなんら変わらないのですが、リアルからバーチャルに変換される過程に普通とは違うフィルタをかけて変換することで、おもしろいことをしたいと考えています。
そのフィルタが、自分の活動では「まちで見つけた看板の文字を五十音のフォントにすること」だったり、「町工場にある機械の一部分をクローズアップして撮影すること」だったりするのかなと思います。

誰かが作ったルールで遊ぶよりも自分で探し出した遊びのほうがおもしろい

『のらもじ発見プロジェクト』や工場音楽レーベル『INDUSTRIAL JP』につながる原体験は、小学生の頃にあったと思います。
自分の父親は手塚治虫先生や藤子不二雄先生とか、昭和の名作系のマンガを買い揃えていて、当然のように影響を受けた小学生の自分は「マンガ家になりたい」と思っていました。 ただ、どうやってマンガ家になっていいのかわからない。そんな時に藤子不二雄A先生の『まんが道』の中でマンガ雑誌を作るエピソードに出会いまして…。自分もまずはこれをやらなければいけないと(笑)。コクヨなんかの30ページくらいの学習ノートを2、3冊重ねて、ちゃんと装丁して。もちろん自分でもマンガを描くわけなんですが、マンガを描いたことのない友達にも「ここの8ページを埋めてほしい」とか言って描いてもらって掲載しました。マンガはもちろん、よく少年誌に載っているようなゲームやホビーの紹介ページ、お便りのコーナーや投票ランキングなど、雑誌全体を作っていました。今になって思えば、マンガを描くことより雑誌の編集に熱中していたんです。

例えば『INDUSTRIAL JP』では、ウェブサイトで楽曲が買えるほか、ミュージックビデオや工場の従業員インタビュー記事があったり、6秒くらいに切り出した映像をSNSにひたすら流すというコンテンツも作っています。そういういった、全体を設計して編集してつくるような制作のしかたを、なんとなく子供の頃からやっていた気がします。

その頃、自分がもうひとつ好きだったのは「酒ゴマ」集め。お酒の一升瓶の蓋(酒蓋)をコマにする遊びです。フタの天面に入っている酒造メーカーのロゴがいろいろあって、居酒屋や酒屋の裏に積んであった空き瓶からレアなブランドを発掘するのが好きでした。当時の少年誌で紹介されていたようなホビーや遊びにはまったく触れていなくて、商業的に誰かが作ったルールや遊び方ではない遊びにおもしろさを感じていたんだと思います。その感覚は、『のらもじ発見プロジェクト』に通じる部分がありますね。「酒蓋」のロゴはグラフィックデザインですし…(笑)

何かひとつというよりもいろいろなメディアや表現に興味があった

その小学生の頃の原体験を再確認したのは、大学進学を考え始めた頃です。まわりのみんなは進路を、いろいろな教科を学ぶ中で「歴史に興味がある」「数学の問題を解くのが楽しい」というところで決めていましたが、僕にはそれを見つけることができませんでした。中学・高校時代の自分は部活に必死で、勉強も真剣に打ち込んでいなかったからです。でも、スポーツ選手になるつもりもなかったので、自分の好きなことを探すために過去にさかのぼりました。高校は部活、中学は部活、辿り着いたのが小学生の頃に夢中になったマンガ雑誌作りでした。
そして、大して将来への展望もなく金沢美術工芸大学へ進学し、4年間デザインを学んで、そこから電通に入社し、アートディレクターになりました。電通に入社を決めたのはいろいろなメディアや、表現手法を扱っている会社だからです。何かに特化した専門性がなく、それでいて大きいところが魅力でした。

学生時代は何かひとつのことを好きになって打ち込むことができませんでした。小学生の頃からそうで、マンガだけではなく、ほかのメディアや表現にも興味がある状態で。それは現在も変わらないというか、さらにいろいろなものに興味の幅が広がってしまっています。
若い頃ほど形から入るので、ポスター、イベント、本、ウェブサイトと、バラバラに分離して取り組むのですが、経験を積んでいくとそれぞれのメディアを扱うときに、実は共通する部分が見えてきます。例えば、本のエディトリアルデザインをするスキルがウェブサイトの情報を整理するスキルとつながっていたり、「インタラクティブ」という観点からみると、絵本もアプリケーションもイベント企画も、つくるときに使う脳ミソは一緒だったり…。今やっと、その共通する考え方の部分が自分のなかで繋がってきたという実感がありますね。

FUTURE

『のらもじ』よりも賛否両論があり、考えるキッカケとなるそんなプロジェクトを手掛けていきたい

最近では『のらもじ発見プロジェクト』では、立ち上げてから4年間かけてやって来たことを『のらもじ まちに出よう もじを探そう』という本にまとめました。 『INDUSTRIAL JP』ではDOMMUNEでトークやトラックメーカーが楽曲をプレイしたり、新曲の制作に取り組んでいたりします。どちらのプロジェクトも、活動に賛同した新たな人たちが外から刺激を与えてくれる限り、再び活性化するプロジェクトになっていきそうです。そういう意味では、キリがないといえますね(笑)。とはいえ、どちらも爆発的に大きくなるプロジェクトではないと思うので、5年くらいかけてゆっくりやっていこうかと思っています。

自分自身のキャリアとしては、広告のアートディレクションがベースになっているのですが、これからは現代アートやメディアアートなど、ちょっと小難しい作品にも挑戦したいという思いはあります。キャッチーさもあるけど、深掘りもできる内容で。わかりやすいけど、もっと賛否両論になるような、そういう何かを制作できたらなと考えています。

PROFILE

下浜臨太郎 しもはま りんたろう

1983年東京生まれ。
金沢美術工芸大学卒。グラフィックデザイナー。ポスター、新聞広告、パッケージ、ウェブサイト、スマートフォンアプリ、展示空間など幅広くデザインに携わる。レコードレーベル「INDUSTRIAL JP」の企画運営、21_21 DESIGN SHIGHTでの展覧会や地方芸術祭への出品など、独自のプロジェクトを積極的に行う。
東京TDC賞2014RGB賞、文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門優秀賞、他受賞。

OFFICIAL SITE http://rin-shimohama.tumblr.com/
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INTERVIEW & WRITING
KOJI ARAIKAWA
PHOTOGRAPH
KAZUSHI YOSHINAGA(NEW PHOTO STANDARD)
FRONT-END
QLOT.INC
EDIT, ART DIRECTION ,DESIGN
 TSUTOMU MARUSHIMA EDITOR'S NOTE

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